2022年6月7日(火) 息子2歳10か月
いつもの変わらない平日の夜。
ペンギンは夕食を食べ終わると、なだれ込むかのようにテレビの前にある座椅子に身を委ねた。
テレビの画面には、ペンギンが2か月前からハマっているアニメ、パウ・パトロール。
7匹の犬達が人や動物をレスキューするアニメだ。
元は海外のアニメらしく、時々英語版も見ている。
初めて英語版を見せたときは、嫌がるかと思ったが、犬達がレスキューする姿が一番なペンギンには言語は関係ないらしい。
何度同じストーリーを見ても目を輝かせてテレビの中の犬達を眺める姿に親ながらに感心する。
(なにかしら身につくだろうか…)
いつの間にかルーティンとなったこの時間はペンギンにとって幸せな時間だが、母親のシロクマにとっては憂鬱な時間だったりする。
子育て中の母親としては少しでも早く寝かせたいし、テレビよりもおもちゃで遊んで欲しい気持ちがあるからだ。
現在の時刻は19時47分。
共働きで家に帰りつくのが18時を過ぎるせいで夜の時間はあっという間に終わる。…本当にあっけない。
『20時になったらテレビおしまいね。リモコンはテーブルの上にあるけん自分で消すんよ。あと、その後はお風呂ね。』
ペンギンに細かくゆっくりと説明をする。
相手が大人なら、「20時になったらテレビきって風呂入って。」と言えばいい。
だが、小さな子供に行動をうながすときは、どうするべきかきちんと分かるように説明する。
これはシロクマが将来、子供に怒る回数を減らせるのではと考えたうえでの行動だ。
シロクマから時間を言われたペンギンはチラッと時計を確認すると、わかった。と小さく返事をした。
ペンギンの理解している素振りに、シロクマはホッと力が抜ける。
(ちゃんと聞いてくれた…)
―――
長い針が12を指す。
シロクマは、神経を尖らせながらペンギンに声をかけた。
『20時になったよー。リモコンはテーブルにあるよ。テレビを消して〜。』
…どうだろうか
ペンギンの反応を固唾を呑んで見守る。
シロクマに言われ、時計を確認すると体がスムーズにリモコンを取りに向かい、手に取った。
よく見ると指も赤いボタンに添えられている。
(あと、少しだ。押すんだ…。押してくれ。)
なかなか押されないボタンに違和感を感じて視線を上げると
( -”-)ぐぬぬ・・・
…険しい顔をしたペンギンがいた。
どうやらスイッチを押したい気持ちと、アニメを見たい気持ちが戦っているようだ。
そうと分かれば、ヒソヒソ声で応戦する。
『…リモコン…リモコンのボタン…ボタンを押すんだ』
その声に反応したペンギンは、ハッとしたように手元のリモコンを見るとボタンを押した。
(よっしゃぁぁあああ!!!!!)
シロクマの脳内で男のボディビルダーが雄叫びを上げながらゴリラポーズを決めた。
(何という達成感…。ペンギンが誘惑に勝った。)
『ママ!!時間やばいよ!!』
ペンギンの声に、意識が戻されると目の前にいたはずのペンギンがいない。
『ママ!お風呂!!』
振り返るとそこには、オムツを両手に気合の入ったペンギンが立っていた。